2014年03月17日

気まずい空気が漂った

 僕は駅に向かって走っていた。仕事の打ち合わせに遅れそうだったのだ。
 この日会う相手とは、過去にも待ち合わせに遅れた事がある。さすがに二度は遅刻できない。四十一歳の全力疾走。もちろん長くは続かない。しかし立ち止る訳にはいかなかった。とにかく夢中で足を進めた。

 駅に辿り着くとエスカレーターを駆け上った康泰自由行。自動改札機にパスモを叩きつけホームへと向かった。目的の電車が見える。その扉は今まさに閉まろうとしていた。最後の力で右足を伸ばし華麗なる舞を見せる。僕の肉体が車内へと飛び込んだ。背後で扉が閉まる。
 セーフだった。ぎりぎりセーフだった。乱れに乱れた息を全身で整えた。すべてを出し切った達成感が僕を優しく包んでくれた。

 もっともすぐに「駆け込み乗車はご遠慮ください」と車内アナウンスで怒られてしまった。我に返ると車内の乗客が全員笑っているように感じた。なんだか急に恥ずかしくなった僕はごまかすように隣りの車両へと移動した。

 車両を移ってしまうと、予定の電車に乗れた事による安堵感がやってきた。これで遅刻はしないですむだろう。ホッとすると心の余裕が戻ってきた。
 昼過ぎの割には車内に乗客の姿が多かった。吊革につかまると、隣には若い二人組のサラリーマンが立っていた。

 彼らは会社の上司について話をしているようだった。一人が話役でもう一人は聞き役だった。どうやら彼らの部署の課長さんがどうにも役に立たない人物のようで、話役の彼はたいそうご立腹の様子だった。興味津々の僕はしっかりと聞き耳を立てていた。

 課長さんに対する愚痴はそれからしばらく続いた。会社勤めも色々と大変なのね。そう思いながら聞いていると、話役の彼は「それよりもっと許せない奴がいる」と告白した。それは一体誰だ? 彼は声を潜めて言った「デ部長だよ」と。
 それに反応して笑い声が出た。聞き役の男ではなく、僕の口から。
 しまった。一瞬とは言え油断した。話していた彼らは同時にこちらを見た。僕は目を逸らし何度か咳払いをしてやり過ごした。しかし彼らはそこでぴったりと会話を止めてしまった。聞き耳を立てていたのはバレバレだった。

 気まずい空気が漂った。僕は何気を装い車両を移ろうと思った。しかしそこは先頭車両だった。反対側に戻れば先ほど華麗なる舞を披露した車両を再び通り過ぎる事になる康泰領隊。それもそれでなんだか……

 結局次に停車した駅で電車を降りた。あの妙な気まずさに耐えるぐらいなら、後続を待った方がマシだった。ホッと息を吐き、ちょっと考えた。そして次の電車がやってきた頃、自分がとんでもないミスをした事に気付いた。待ち合わせの時間が……

 僕は前回に引き続き二度目の遅刻をした。
 電車内の事を正直に話す訳にもいかず「忘れた資料を取りに戻った」と嘘の言い訳した。有難い事に相手は何事も無かったように許してくれた。優しいのだ。しかし次はどうかわからないnuskin 如新。三度目の正直じゃないけれど今度は絶対遅刻できない。でも仏の顔も三度までならと……いやいや。

 とにもかくにも次から早く家を出よう。遅刻するたび立てる誓いを、性懲りもなく繰り返すのであった。


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